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#01ヒグチユウコ×中村佑介

可愛いとグロテスクを両立させるバランス感覚

中村でも、ヒグチさんがやっているようなファッション系の仕事は、本当に難しいと思うんですよ。良い絵だからって必ずしも可愛い服になる、というわけではない。いくら大好きな絵でも、それを身につけたいかというのはまた別の話ですもんね。例えばゴッホの絵が好きでも、ゴッホのTシャツ着ないし(笑)。あと、ヒグチさんのすごいのは、そういうお仕事をしつつ、いち作家としてのネームバリューもあって両立しているという部分。あまりそういう人、僕は知りません。服のデザインとして気に入っても、それを誰が描いているのかまでは、気にならない方が普通だと思う。でも、ヒグチさんは違うんですよね。「誰の絵なんだろう?」とか「画集買ってみよう」とか。そこまで持っていく力がある。僕、実際そうでしたからね。いそうでいなかった人というか…。そのバランス感覚たるやすごいですよ。

ヒグチおお、そんな風に言って頂けるとは…(笑)。

中村いや、本当に。絵柄的には、こういう“ジャンル”ってあるとは思うんです。『不思議の国のアリス』の世界観から続いているような、ちょっとゴシックな。好きな人は多いし、描きたい人も多いと思う。でもあくまで、ちょっと偏った趣味のものというか…。お母さんとかに見せても、あんまり喜んでくれないような感じでしょう(笑)。一般にまで普及するようなものではなかった。でも、ヒグチさんの絵を見て、「おお…!」となったんです。そういうジャンルなのに、ちゃんと一般にまで届く絵。何が違うんだろう、と考えてみて…おかしな例えですけど、子供でも食べられる珍味ってあるじゃないですか。イカの塩辛はキツいけど、明太子はいけるみたいな(笑)。そういう、地続きなんだけど、絶妙なポイントで「いける」方になってる。そのポイントは、色遣い、構図やモチーフの選び方、描写の仕方だったり。すごくそういうアンテナが張り巡らされているんですよね。例えばモチーフとしてちょっと気持ち悪いものが描かれていても、他の部分にそれをカバーするような工夫が入っていたりする。

ヒグチたしかにそういう事はかなり意識していますね。そこまで計算しているわけではないけど、見る人の事を考えて描いてはいます。

中村うんうん。やっぱりそうなんですね。だから、「そういうジャンル」でありつつも、届いてくるんでしょうね。

クロッキーブック表紙(ホルベイン画材株式会社)
ここにも一般的に可愛いイメージではないものも、タッチや組み合わせや色によって、見事に可愛さに昇華させるバランス感覚が光る。

作風確立の道はカエルから?

中村どういう紆余曲折を経て今の絵のスタイルを確立されたのか、というのもお聞きしたいです。学生の頃は、どんな作品を制作されてたんですか?

ヒグチひたすら大きな作品をつくってました。でっかいキャンバスに、女性のヌードを点描で描いたり。色は、ビビッドな赤とかを使っていましたね。今よりもちょっと抽象的で、気持ち悪めの感じ。途中から、頭がなくなったりもしてたし(笑)。顔なしの人間。でも、そこまで写実的に描いていたわけではないので、グロテスクな感じではなかったですけどね。それから、和紙を使うようになって…。そこで画材として色鉛筆を使いだしたんです。色鉛筆でちくちくと点描を描く、みたいな。モチーフは変わってなかったですけどね。でも、どういうわけか途中で、天啓を受けたかのように“カエル”に支配されて(笑)。そこからモチーフが全部カエルになったんです。

中村カエル…お好きなんですか? たしかにあそこの瓶にもすごい量のカエル(のフィギュア)が詰まってますけど…。

ヒグチ大好きです。というか、その時に急に目覚めたんですよ(笑)。特にガマガエルが好きです。可愛い~。

中村可愛くはないでしょうよ(笑)。

ヒグチいや、今そう思ってても、急に目覚めたりするんですよ? 私の友人で原型師をやっている人も、仕事でカエルをつくる事になって、いろいろ調べているうちに目覚めてたし。あと私、カタツムリも好きなんですけど、まったく興味なかった友人が家に来て本物のカタツムリと触れ合った事で、目覚めて帰っていきましたもん。って、話がずれちゃいましたね。何でしたっけ(笑)?

中村えっと、ヒグチさんは途中からカエルの絵を描きだして…。その時もサイズは大きかったんですか?

ヒグチサイズは様々になりましたね。大きいのもあれば、小さいのを100枚くらいシリーズで描いたり。で、大学4年生の時にはじめて個展をやったんですが、大きい100号の絵とかは売れないけど、小さいもの。それこそ絵ハガキサイズくらいの絵は、わりと売れたんです。その後も、コンスタントにそういう絵は売れていて。だから、売るために小さめの絵を描く、という事は意識的にやりだしました。

中村そしてモチーフは、カエルから徐々に広がっていった?

ヒグチそうですね。ちょうど猫を飼いはじめた頃から、今度は動物全般を描きたくなって。それで動物をたくさん描くようになり、絵柄的にも変化がありました。かっこよく描くより、ちょっと楽しい感じで描いた方が合ってるなと。そうしたら、意識もちょっと変わった。それまで大きなコンペにばかり出品したり、だいぶ気負って制作していたところがあったんですが、ちょっと気楽に構えられるようになってきたんです。そうしているうちに、仕事も来るようになったし、まぁ、なんとか黒字になるようになって今に至る…みたいな(笑)。

中村なるほど。ヒグチさんは個展のための作品をたくさん描かれている上に、今ではとにかく仕事もいっぱいこなしているから、すごく多作ですよね。

ヒグチひたすら描いてますね。でも変な話、仕事がなくてもずっと描いているとは思う(笑)。学生の頃からそうなんですよ。

中村やっぱり、好きだからですか?

ヒグチうーん、もうずっと描きつづけているから…。「好き」というより、絵を描くしかない、みたいな感じですかね(笑)。別に、他に出来る事ってないし。だから、今はちゃんと人に求められてお仕事になっているのが、すごく幸せな事だなと思っています。一人で好きなものを描いて、それがたとえ誰の目にも触れなくてもお金にならなくても幸せ、というのも分かるんです。でも私は学生の頃から、「絵だけで生計を立てられてこそ」という風に考える方だったので。

キッチンにも所せましと、まるでヒグチ作品のように、タコやキノコと可愛い色が、また古いものと新しいものが自然と同居している。手前にはお話にも出てきたカエルをはじめ、フィギュアがたくさん。

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